実体験レポート
私のラヴィはフィンランド帰り
2.雷
’98年フィンランドの夏は、毎日毎日、雨雨雨、気温も低く最悪の夏でした。
サマーコテッジでは、半そでで日光浴をし、湖で泳いだあと、サウナにはいるということを楽しみに、食べ物を車に詰め込み、各自のサマーコテッジに向かうのです。ほとんどのサマーコテッジには、電気も、水道もありません。それが、自然と共存するというコンセプトにあっていて、フィンランド人にとっては、この不便な生活が逆にトレンディーだったりするのです。
しかし、この夏はそういうわけにはいきません。
それでなくても、サウナの後、体を洗うための水を湖からバケツで運び、大きな釜に入れお湯にすべく、薪をくべる。飲み水、食事の準備のための水を井戸からくみ上げる。サウナに薪をくべる。それに、暖炉にも薪をくべるという仕事も、この夏は加わったわけです。薪を割ったり、前年からの落ち葉の掃除なども重要な仕事です。
人間衆は、朝からサマーコテッジに“生活”をするために、忙しく動き回っています。ラヴィは、ボールを投げてもらったり、彼女中心でない一日に少し不満げ。”私はここよ”といいたげに、手伝いたいという気持ちもあるのでしょうが、人間衆の足元をうろうろうろうろ、まとわりついてきます。まったく邪魔以外なにものでもありません。
その日も、日中久しぶりに雨が降ってなかったので、ここぞとばかりに、しなければいけないことを黙々とやっていました。
サウナに入る準備が整ったころに、空が少し曇りだし、丁度良かったと、人間衆はサウナに入りました。ラヴィは、日中少しさびしかったこともあり、サウナに一緒に入りたそうにドアのところまで来たのですが、薪のサウナの熱気には勝てません。外で待っていることにしたようです。
サウナ小屋の窓から少し見える空は、あれよあれよと雲が厚くなり、灰色になったと思ったら、何とも言いようのないうす紫色になり、いたるところに稲妻が走り出したのです。その少しあと、殴るような雨が振り出し、雷もBGMのごとくなりだしました。
ドアのところで待っているラヴィの様子が気になったのと、体も温まったので外に出てみると・・・。
なんと、ラヴィは空を見つめながら固まっているではありませんか。私がいくら“ラヴィ、ラヴィ”といって、着替えルームに呼び寄せようとしても、銅像のように固まってしまったらラヴィは微動だにしません。いい加減、心配になった私は、ラヴィの頭を少しなでてみることに・・・。ラヴィは、少し頭を上げ、私を上目ずかいに見上げ、また、空を凝視して固まってしまって・・・・。
天涯無敵、学習しないラヴィにも苦手なものがあったと、始めて分かった瞬間でした。
東京で、何度か台風に遭遇したことはあるものの、180度に広がる空の変化には、さすがのラヴィもびっくりしてしまったようです。雨が振り出す前には、恐ろしいほどの静けさで、空を鏡のように映し出す湖の不気味なまでの冷たい美しさ、ラヴィでなくても固まってしまいそうです。
とんでもない夕立が過ぎ去った夜は、満天の星空と、微動だにしない湖の水面に宝石をちりばめたように星が映し出され、再び静けさが戻ったのでした。
その日の夜の、暖炉の前でコニャックを飲みながらの団欒の話しの中心は、固まってしまったラヴィの表情の話だったことはいうまでもありません。その横で、何事もなかったように熟睡しているラヴィは、何の夢をみているのだろう・・・と思いつつ、私達も床についたのです。きっと、ワイルドなラヴィでさえ、本当の自然の怖さには勝てないんだ・・・と思いながら。
次回予告: 3.散歩
お楽しみに。☆
Written by MOTOM
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